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2025.10.27

【プロ直伝カメラワーク講座】なぜ、あの映像は心を揺さぶるのか?感情を引き出す“引き”と“寄り”の技術

結婚式の映像で、思わず涙がこぼれそうになる瞬間。それは多くの場合、新婦の瞳から一筋の涙が流れる「寄り」のカットや、広大なチャペルに佇む二人の「引き」のカットではないでしょうか。

この「引き」と「寄り」は、単なる映像技術ではありません。観る人の感情を巧みに誘導し、物語へと深く引き込むための、ビデオグラファーの“魔法”です。

今回は、cEEが誇る2人のビデオグラファー、奥村と眞野が、この「引き」と「寄り」の奥深い世界を徹底解説。プロは一体何を考え、どのように感情を映像に焼き付けているのか。その極意に迫ります。

 

【奥村の哲学】感動は“寄り”で生まれるのではない。“引き”から始まっている。

cEE編集部:

奥村さんにとって、「引き」と「寄り」のカメラワークとは何でしょうか?

奥村:

多くの人は、感動的なシーンというと、涙する表情をアップで捉えた「寄り」の映像を思い浮かべると思います。もちろん、それはクライマックスとして非常に重要です。しかし、僕に言わせれば、その感動は「引き」の映像がなければ成立しません。

cEE編集部:

というと?

奥村:

考えてみてください。いきなり誰かが泣いているアップの映像を見せられても、感情移入はできませんよね。「なぜ、この人は泣いているんだろう?」と疑問に思うだけです。

「引き」の映像は、その「なぜ」に答えるための、物語のプロローグなんです。

例えば、壮大で美しいチャペル。そこに、少し緊張した面持ちで佇む新郎新婦。そして、温かい眼差しで見守るゲストたち…。この「引き」のワンカットがあるからこそ、私たちは「ああ、今、この二人は人生で最も大切な瞬間を迎えようとしているんだな」と理解し、物語に入り込む準備ができる。

その上で、誓いの言葉に感極まる「寄り」のカットが来るから、私たちの心は揺さぶられるんです。つまり、「寄り」の感動は、「引き」という丁寧な“フリ”があって初めて最大限に活きるんです。

cEE編集部:

「引き」は、単なる状況説明ではない、ということですね。

奥村:

その通りです。だから、「引き」の映像はただ引いて撮ればいい、というものではありません。そこには芸術性が求められます。光はどこから差し込んでいるか、主役である二人は構図のどこに配置すれば最も美しく見えるか。

簡単に思われがちな「引き」の映像にこそ、実はビデオグラファーのセンスと経験が凝縮されています。次に結婚式の映像を見る機会があれば、ぜひ「寄り」だけでなく、その前の「引き」の映像に注目してみてください。きっと、作り手のこだわりと、物語の始まりを告げる静かな興奮を感じ取れるはずです。

 

【眞野の技術論】ズームに頼るな。感情は“足”で撮れ。

cEE編集部:

眞野さんは、「引き」と「寄り」をどう捉えていますか?

眞野:

僕は、多くの人が勘違いしている、ある“常識”からお話ししたいと思います。それは、「引き」と「寄り」は、レンズのズーム機能で作るものではない、ということです。

cEE編集部:

ズームではない? では、どうやって?

眞野:

カメラマン自身の“足”、つまり被写体との物理的な距離で表現するべきなんです。

例えば、同じ場所からズームリングを操作して被写体に寄っていくのは、簡単ですが、どこか機械的で、映像としては“つまらない”ものになりがちです。

そうではなく、広角レンズをつけたまま、カメラマンが自らの足で被写体にすっと近づいていく。すると、背景がダイナミックに動き、まるで観ている自分もその場にいるかのような、圧倒的な臨場感が生まれます。ベールダウンを終えたお母様が、新婦をぎゅっと抱きしめた瞬間。その感動の渦の中へ、カメラも一緒に飛び込んでいく。このドキュメンタリー的なリアルさこそが、人の心を打つんです。

cEE編集部:

物理的に動くことで、映像の質が変わるのですね。

眞野:

はい。僕はよく、ズームができない「単焦点レンズ」一本で撮影に臨むことがあります。いわば、自分に課した「縛りプレイ」ですね(笑)。ズームができないから、良い絵を撮るためには自分が動き回るしかない。すると、普段なら考えつかないような新しい構図やアングルが次々と見えてくるんです。

映画を観ていても、「この監督は、この感情を表現するために、あえてこの焦点距離のレンズを選んでいるな」と分析します。レンズの選択、そして被写体との距離感。そのすべてが、感情表現に直結している。

「引き」と「寄り」は、ただの画面サイズの話ではありません。それは、カメラマンが被写体とどう向き合い、その心の機微をどう捉えようとしているか、という“姿勢”そのものなんです。

 

まとめ

「引き」は物語の深みを、「寄り」は感情の頂点を描く。

奥村の語る“哲学”と、眞野の語る“技術”。アプローチは違えど、二人が目指すのは、観る人の心を揺さぶり、永遠に記憶に残る映像を創り上げることです。

cEEの映像に宿る感動の裏側には、こうしたビデオグラファー一人ひとりの深い洞察と、妥協を許さないこだわりが隠されています。ぜひ、この「引き」と「寄り」に込められた作り手のメッセージを感じ取ってみてください。

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