結婚式のビデオグラファーは、感動的な瞬間に日常的に立ち会う仕事です。しかし、プロとして常に冷静な視点を保ち、最高の作品を創り上げることに集中しているため、仕事中に感情が溢れて涙することは、そう多くはありません。
しかし、cEE熊本オフィスで活躍するビデオグラファー渡辺は、一度だけ、編集中に涙が止まらなくなった経験があると言います。
それは一体、どんな結婚式だったのか。彼の心を揺さぶったエンドロールの裏側にあった物語を、詳しく語ってもらいました。
特別な一日のはじまり。打ち合わせとロケ撮影で深まった絆
撮影を通して、お二人のパーソナリティに触れる大切な時間
cEE編集部:
本日はよろしくお願いします。渡辺さんが「編集中に涙した」という経験について、教えていただけますか?
渡辺:
はい、よろしくお願いします。ただ、最初に言っておくと、大げさにポロポロと泣き崩れたわけではないんですよ(笑)。でも、自分でも驚くほど感情が込み上げてきて、涙をこらえるのに必死になったのは、後にも先にもあの結婚式だけです。
あれは2021年の11月、まだコロナ禍で皆さんがマスクをされていた頃でした。熊本オフィスでは、基本的にすべての新郎新婦様と直接お打ち合わせをさせていただくのですが、そのお二人は特に印象的でした。
当日上映するエンドロールだけでなく、結婚式の前にオリジナルのロケ撮影もご依頼いただいていたんです。私と新郎新婦様の3人で、熊本の美しいロケーションを巡りながら撮影した時間は、本当に楽しくて。その中で、お二人の馴れ初めや、結婚式にかける想いをたくさん伺うことができました。
予兆なき涙。編集中に起きた、突然の感情の高ぶり
cEE編集部:
事前のお付き合いが長かったことで、特に思い入れが深まっていたんですね。
渡辺:
そうですね。そして迎えた結婚式当日。私はエンドロールの編集担当として現場に入りました。
使用する曲は、sumikaの『エンドロール』。まさに、その日のためにあるような曲です。カメラマンがどんな映像を撮ってくるか、事前にある程度イメージしながら構成を組んでいたのですが、その時点では特に感傷的になるようなことはありませんでした。「良い曲だな」くらいで、いつも通り冷静でしたね。
しかし、実際にカメラマンが撮ってきた当日の映像素材を、組んでいた構成にはめ込んでいった時です。最終確認のためにプレビュー画面で映像を流した瞬間、なぜか急に、ぶわっと感情が込み上げてきたんです。
まだ編集の途中なのに、涙が止まらなくなってしまって。ぐずぐず鼻をすすりながら、「ちょっと落ち着こう…」と一度作業を中断したのを覚えています。
同級生、親、友人…様々な視点が交錯した瞬間
親御様の表情には、言葉にならないほどの想いが詰まっている
cEE編集部:
なぜ、そこまで感情が揺さぶられたのだと思いますか?
渡辺:
自分でも不思議だったのですが、後から考えると、いくつかの要因が重なっていたんだと思います。
お二人は、高校時代からお付き合いを始め、25歳でゴールインされたカップルでした。私と年齢が近かったこともあり、打ち合わせやロケ撮影を通して、まるで自分の同級生の晴れ舞台を見ているような、親しい友人のような気持ちになっていました。
それと同時に、当日のお父様、お母様の表情を見ていると、まるで自分の娘や息子を送り出す親御さんのような気持ちにもなって…。同級生、友人、そして親。様々な角度からの想いが、自分の中で一気に交錯してしまったんだと思います。
「奇跡のワンカット」が涙腺を崩壊させた
cEE編集部:
そこに、映像と音楽の力が加わったわけですね。
渡辺:
はい。決定打になったワンカットがあります。
sumikaの『エンドロール』には、「今までの僕らにさようなら告げ」という歌詞があるのですが、ちょうどその歌詞が流れるタイミングで、カメラマンが撮ってきた「ある写真」のカットをはめ込みました。
それは、受付に飾られていた、高校の卒業式の日に撮ったであろう、制服姿のお二人のツーショット写真でした。
あどけない表情で寄り添う高校時代の二人と、「今までの僕らにさようなら」という歌詞。そして、バージンロードを歩く現在の二人の姿。すべてが奇跡のようにかみ合った瞬間でした。
「よくぞ、この写真を撮ってきてくれた!」とカメラマンに拍手を送りたかったですし、その歌詞にこの写真をはめ込むことができた自分にも、鳥肌が立ちました。その後のご両親の涙、ゲストの笑顔、そして幸せそうなお二人の表情。すべてが完璧に噛み合って、私の涙腺を崩壊させたんだと思います。(笑)
感情移入は、最高の作品を創るためのスパイス
渡辺:
その日のエンドロールは、記念品贈呈までを収録するプランで、上映時間まで本当にギリギリでした。涙をこらえた後は、なんとか間に合わせることだけに集中して、無事に上映を終えることができました。
自分で編集している映像に、自分で感動して泣くなんて、少し恥ずかしい話ですけどね(笑)。でも、あの時ほど、新郎新婦様の物語に深く入り込み、心を揺さぶられながら創り上げた作品はありません。
私たちビデオグラファーは、技術者であると同時に、一人の人間です。お客様の人生の物語に深く触れることで生まれる「感情移入」は、時に、技術だけでは到達できない、心に響く作品を生み出すための大切なスパイスになるのかもしれません。
あのお二人との出会いは、私にそのことを教えてくれました。
編集後記
プロフェッショナルでありながら、一人の人間としてお客様の幸せを心から願い、共感する。渡辺さんのエピソードは、cEEが大切にする「お客様に寄り添う」という姿勢そのものを体現しているように感じました。
技術と真心が交わった時に生まれる、唯一無二の感動。私たちcEEは、これからもそんな映像を皆さまにお届けしていきたいと、強く思っています。





