今回は、cEEのベテランビデオグラファー前畑が、数々の現場を経験してきた中で「これは特に難しい!」と感じる3つのシーンを公開。プロはどのようにその難局を乗り越えているのか、その対処法とあわせてご紹介します。
この記事を読めば、結婚式映像を見る目が少し変わるかもしれません。
①限られた時間での「ディレクション撮影」
短い時間で、お二人の最高の表情を引き出します
前畑:
まず1つ目は、新郎新婦お二人だけのシーンを撮影する「ディレクション撮影」です。結婚式当日、挙式と披露宴の合間などに5分から10分ほど時間をいただき、私たちがポーズや動きを指示して撮影する時間のことですね。
なぜ難しい?
一番の理由は、新郎新婦様がプロのモデルではないということです。当然ながら、カメラを向けられると緊張で表情が硬くなってしまったり、指示した動きがぎこちなくなってしまったりすることは少なくありません。
スタジオ撮影であれば「もう一回いきましょう!」と何度も撮り直しができますが、結婚式当日は進行が常に動いています。「あと5分でお願いします!」と急かされることも日常茶飯事。その限られた時間の中で、お二人の魅力を最大限に引き出し、私たちが欲しいと思っている映像を撮りきらなければならないプレッシャーがあります。
「少し空を見上げてください」「ちょっと切なげに、でも最後はニコッと微笑んで」といった抽象的なお願いを、瞬時に理解して表現していただくのは、本当に難しいことなんです。
プロの対処法
この難しさを乗り越える鍵は、撮影に入る前のコミュニケーションにあります。
まず、打ち合わせの段階で、私たちがどんな映像を撮りたいのか、どんなポージングをお願いすることがあるのかを、あらかじめお伝えしておきます。
そして当日。私たちは、撮影が始まる直前にご挨拶するのではなく、お二人がメイクをしている時間など、できるだけ早い段階から積極的にお話しするようにしています。いきなり現れた初対面のカメラマンに「はい、笑顔で!」と言われても、自然な笑顔は作れませんよね。
「今日の主役は、間違いなくお二人です!僕たちが世界で一番綺麗に撮りますから、安心してください!」
そんなふうに、とにかくお二人を持ち上げて、信頼関係を築いていきます。この「アイスブレイク」がうまくいくかどうかで、撮れる映像のクオリティは全く違ってきます。まずはお二人との距離を縮め、リラックスしてもらうこと。それが、最高の表情を引き出すための最も重要なテクニックです。
②何が起こるか分からない「サプライズ余興」
予測不能な展開も、最高の思い出として映像に残します
前畑:
続いて2つ目は、新郎新婦に内緒で企画される「サプライズ余興」です。フラッシュモブなどが代表的ですね。
なぜ難しい?
これはもう、何が起こるか全く分からないからです。
事前にプランナーさんからいただく情報も、「ご友人によるサプライズあり」といった、ごく簡単なものだけ。誰が、どこで、何人で、どんなパフォーマンスをして、最終的にどう締めくくるのか…といった具体的な内容は、私たちもその場で初めて知ることになります。
いきなり音楽が鳴り響き、ゲストが一斉に踊り出す。その中で、誰にフォーカスすれば一番良い絵になるのか? 主役は誰なのか? 他のゲストに隠れてしまわないように、どう動けばいいのか? これらを瞬時に判断しながら撮影しなければなりません。まさに、頭をフル回転させて挑むシーンです。
プロの対処法
サプライズが始まった瞬間にまずやることは、特定の誰かに寄るのではなく、まずは少し引いたアングルで、全員が映るよう、会場全体で何が起きているのかが分かるように撮影するということです。
いきなり誰かに寄ってしまって、実はその隣の人がメインパフォーマーだった…という事態を避けるためです。まずは全体を確実に押さえつつ、肉眼で状況を把握します。「あ、あの人が中心人物だな」「次はあっちに移動しそうだ」と展開を予測し、一番の見せ場だと思った瞬間に、素早くカメラを寄せていく。
この一連の流れを、人やテーブルにぶつからないように、かつスムーズなカメラワークで行う必要があります。まさに、ビデオグラファーの経験と対応力が試される瞬間ですね。
③感情が溢れ出す、ゲストが涙する「その瞬間」
一粒の涙に込められた想いを、映像に刻みます
前畑:
3つ目は数あるシーンの中で最も難しいと感じる、ゲストの方が涙する「その瞬間」を捉えることです。これは今でも本当に難しいですね。
なぜ難しい?
新婦様の手紙や、感動的なプロフィールムービーが流れている時、「きっと、あのお父様はここで涙するだろう」と予測して、ずっとカメラを向け続けることがあります。しかし、感情が高まるタイミングは本当に人それぞれ。私たちの予測通りには、なかなかいかないんです。
私たちが本当に撮りたいのは、涙が「ポロリ」とこぼれ落ちた後ではありません。様々な想いが込み上げてきて、感情を抑えきれなくなった結果、瞳から涙が一筋流れる…その一連の流れです。この数秒間の映像があるだけで、作品全体の感動は何倍にも深まります。
しかし、これを撮るのは至難の業。基本的に私たちのカメラは1台です。お父様にカメラを向け続けて、結局涙されなかった場合、その間に隣で感動して泣いていたお母様の表情は撮り逃がすことになります。「お父様を待ち続けるべきか、今泣いているお母様を撮るべきか」。この究極の選択を、常に迫られているんです。
プロの対処法
これには、絶対的な正解や確実な方法はありません。ただ、確率を上げるための努力はしています。
例えば、ムービーが流れている時は、その映像が「誰に向けられたメッセージなのか」を即座に判断し、その方にカメラをロックオンします。また、事前の打ち合わせで新郎新婦様との関係性が深いキーパーソンを伺っておくことも重要です。
最後は、長年の経験で培った「勘」です。「来る…!」と感じた瞬間にカメラを向ける。それでも、撮れない時はあります。だからこそ、あの奇跡的な「涙の瞬間」が撮れた時の喜びは、何物にも代えがたいものがあります。
まとめ
何気なく見ている結婚式の映像も、その裏側ではビデオグラファーによる様々な判断と、一瞬にかける集中力、そして数々の挑戦が隠されています。
私たちは、単なるカメラマンではありません。お二人の人生で最も輝かしい一日を、最高の“作品”として未来に残すためのパートナーです。cEEのビデオグラファーは、こうした難しいシーンにも果敢に挑み、常に最高の映像を追求し続けています。




